しんせつかいせつ英文法

英文法をていねいに解説いたします。

雑記: もう学校で文法は教えてもらえない。

英語の授業がさっぱりわからない、と中1の娘が言います。

それ以外の教科は授業をちゃんと聞いていればよくわかる。でも、英語だけはどれだけ真剣に聞いててもわからない。

上の息子のときは、どの教科も全面的にわからないようだったので逆に油断してたんですが(笑)、娘はそうではなく、英語だけがわからなくて、家でも英語の授業の文句ばっかり言っています。

 

いまどきの中学校の英語はいったいどういうことになっているのか、あらためて娘に詳しい授業の様子を聞いてみると、なるほど、娘が文句を言うのももっともで、話を聞いているうちにだんだん腹が立ってきました。

 

新しいレッスンに入るとき、生徒は予習として新しい単語の意味調べを課されます。

単語の意味は教科書の巻末にリスト化されているので、それをノートに写すだけです。

授業では、それをもとに、まずは何度も反復して単語の発音練習をします。先生はフラッシュカードを使ったりゲーム形式にしたりもして、生徒が覚えるまで何度も声に出して発音させるそうですが、単語の意味や用例を詳しく説明したりすることは一切ありません。

娘のノートを見ると、

~ years old  ⇒ 「~歳である」

などと書いてあり、そのように覚えていましたが、year という単語の意味を聞いてみると「わからない」と言っていました。

単語の練習が終わったら次は本文ですが、全訳をすることはなく、生徒がわかりにくそうなフレーズなどを部分的に板書で説明したら、後はひたすら"Repeat after me!" で、音読を繰り返すのみなのだそうです。

それで終わり。

完全な「習うより慣れろ」式です。

 

中1ですから、もちろんどんどん新しい文法が出てきますが、文法の説明は板書もなく、口頭のみ。「否定文のときは am や is の後ろに not を置きます」等とさらっと言うだけだそうです。

3人称単数現在の -s ももう出てきてますが、系統立った説明は一度も受けていないようでした。

(娘は私が人称と単数・複数の概念を説明してやると、ものの5分で「なんだ、そういうことだったのか」とすぐ理解しました)

 

全訳はしてもらえないので、本文中にも一人では解釈できない部分がたくさん残ります。

「Tell me about it. ってどういう意味?」と娘が聞くので、「それのどこがわからないの?」と聞き返すと、「about って、”約~” っていう意味じゃないの?」と言っていました。

そもそも、命令文自体も習っていないようです。

 

そういう授業でみんなどうやって理解しているのかと聞くと、娘はずばり「塾」、と即答しました。

自分もかろうじてどうにかなっているのは、塾で文法を教えてもらっているからだ、と娘は言います。

「塾に行ってない子は何もわからないと思う」、とも。

 

5~6年前、中3になる知人の息子が英語が全くできないというので、一度見てやってもらえないかと頼まれたことがあります。

その子も、うちに来ると開口一番、「学校ではリクツを全く教えてくれない。リクツを教えてほしい」と言っていました。

「リクツ」というのはもちろん、文法のことです。

塾に通っていなければ、彼のようになるのが必然なのかもしれません。

 

高校で教えていても、異変には随分前から気付いていました。

もう何年も前から、高校に入ってきた時点での生徒の文法力がとにかく低くなっています。

進学校に入学してくる優秀な生徒でも、基本的な人称や数や時制の間違いが極めて多い。

学習初期におけるそうした基礎の不徹底はダメージが深く、簡単には修正できません。

大学受験間近になって高3生の英作文を添削し始めると、その基本的なミスの多さに愕然とすることがよくあります。

 

何よりも顕著なのは、昼休みや放課後に質問に来る生徒がほとんどいなくなったことです。

数学ほどではありませんが、かつての高校生は頻繁にわからないところを質問しに来ました。

高1~2年の間は、関係副詞がわからない、仮定法がわからない……等、そのほとんどが文法に関する質問です。

近年は、そうした質問がほとんどなくなってしまいました。

聞かなくてもわかっているから、ではもちろんありません。

英語を文法で理解していくという発想そのものが極めて希薄になっているからです。

英語は反復練習で、なんとなく、雰囲気で読む。

どうやら中学校の段階でそういった学習姿勢が刷り込まれてしまっているようなんです。

 

従来の、いわゆる「文法訳読」式の教授法が問題視されるようになってずいぶん経ちます。

日本人は文法や訳読ばっかりやってるからちっとも話せないんだ……といった言い分はもう耳にタコができるほど繰り返されてきました。

今や、英語教育のトレンドは、完全に「文法訳読」を害悪のように見なすようになっていて、その流れはおそらく今後もどんどん加速します。

 

もちろん、文法を教えるな、和訳するな、とまで言われているわけではありません。

しかし、そうした指導は「必要最小限に」とどめ、「実践的な言語活動」の時間を多く確保するように、とは言われています。

 

中学校は義務教育ですし、どうやら想像以上に、そうした文科省の指導に忠実な授業が実践されているようです。

 

教員が一方的に講義する従来型の授業はダメな授業で、生徒が自ら考えて主体的に活動する時間が多いほど良い授業なわけです。

もちろん、まだ単語も文法もほんの少ししか知らない中学1年生が「自ら考えて」できる活動など限られていますから、実際には「一方的な講義」を避けようとすると、音読でもさせるしかないのでしょう。

それで「Repeat after me!」地獄になっているのだと想像します。

 

公立高校の入試に対応するくらいでしたら、まあそれでも何とかなっているのかもしれません。

どのみち、教育熱心な家庭はみんな塾に通わせてますし。

「中学校の授業では何もわからなかった。塾で全部勉強した」みたいなことを言う生徒は昔からいます。

有名私立などを狙う生徒は最初から公立中学校での授業など当てにしてないし、都会だったらそもそも優秀な生徒は中学校の段階でもう私立に入っちゃっているでしょう。

なんか、意図的に格差社会を構築しようとしているのではないかという疑念すら持ってしまいますが。

 

もちろん、先生によって授業の仕方はある程度さまざまでしょうし、もっと言えば、自治体単位でも違うような気がします。

ベネッセがやっているスタディ・サポートというテストを、高校に入ってすぐに多くの学校が受験するのですが、その点数を見ると、毎年、出身市町村単位で違いがあるように感じます。

きちんと緻密に分析したわけではなく、あくまでも印象でしかありませんが、数学や国語にはそうした傾向はあまりないようなので、英語に関してはもしかすると市町村教育委員会の方針のようなものも影響しているのかもしれません。

 

ともあれ、今の中高生には、英語を文法で、すなわち論理で理解するという発想そのものがなくなっています。

その結果、実際の英語力が上がっているのであればそれで正解でしょうけれども、事実はそうではありません。

 

道端で外国人に道を尋ねられた時に案内ができる、とか、海外旅行でスムーズに税関審査を通過したり買い物したりできる、とかいった程度の英語力をゴールに設定するのであれば、今の英語教育はバッチリかもしれません。

「リクツ」抜きの反復練習で十分でしょう。

実際、いまどきの中高生は、そういうのは上手ですし、ごく基本的な会話表現のリスニング力は、昔に比べると向上しています。

 

しかし、最終的な目標が実用レベルであるというのならば、つまり、いわゆる「グローバルな」人材を育成するつもりで、そのための英語力を育てようというのなら、文法は必須です。

英語の基礎は、単語と文法です。

個人的には、中高6年間はそれだけやっててもいいんじゃないかとすら思っています。

 

その文法を、もう学校ではまともに教えてもらえなくなるかもしれません。

少なくとも、娘の通う中学校ではもう教えてもらえないみたいです。

 

高校でも、文法に割ける時間はどんどん減っています。

数年後の指導要領の改定は、これまでよりももっと抜本的な改定になりそうですから、さらに事態は深刻になるのではないかと思っています。

 

だから、文法を、イチから親切に、丁寧に解説する場を作りたい。

そういうつもりでこのブログを立ち上げました。

普段の授業できっちりイチから全部説明したいのに、どうしても時間が取れなくて説明できない。

そういう部分をしっかり書いてみたいと思っています。

 

高校英語が専門なので、中学校1年生くらいの、ごく基本的なこと(be動詞の使い分けとか、3単現の s とか、否定文や疑問文の作り方とか……)はだいたい理解している、というくらいの前提でスタートさせてもらいます。

想定しているのは、現役高校生や受験生はもちろん、もう一度英語を基礎からちゃんとやり直したい大学生や社会人、または若い指導者の方々にも参考にしてもらえるのではと思ってます。

 

忙しいので更新はゆっくりになると思いますが、どうぞご贔屓に。