しんせつかいせつ英文法

英文法をていねいに解説いたします。

雑記:I am a boy. ではいけませんか?

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その昔、中学校に入ったばかりの1年生は、

 I am a boy.

とか、

 This is a pen.

とかいったような、いささかシュールなセンテンスから英語の勉強を始めたものでした。

今はもうこのような英文が授業で扱われることはまずありません。

 

確かに、

"What's this?" ー "This is a pen.”

「これは何ですか?」「これはペンです」

 などという対話が現実場面で発生する確率は、一生に一度あるかないかでしょう。

そういう意味で、"I am a boy." や "This is a pen." というのは極めて「非現実的」なセンテンスではあります。

そして、そうした理由で、昨今の授業ではこのような例文が使われることはなくなりました。

 

しかし、こうした例文を使った文法レッスンを、「現実的な使用場面がない」という理由で否定する人たちは、かつてはあえてこのようなくだらない例文が何十年も使われ続けていたことの意味をよく理解していないように思います。

当たり前ですが、昔の英語教師は、現実場面で "I am a boy." と言えるようにするためにこの例文を使っていたわけではありません。

それは昔の先生をナメすぎです。

 

言うまでもなく、I am a boy. と習うのは、現実に "I am a boy." と発話するためではなく、She is a girl. や He is a student.  They are teachers.   That is a bank. へと応用、発展させるための土台です。

そしてそれができたら、今度は I'm not a boy. と否定文を作ってみたり、 Are you a boy?  と疑問文にしてみたりする。

 

I am a boy. には、中学1年生がまず最初に学ぶべき文法のルールがたくさん含まれています。

主語は me や my ではなく、I であること。

be動詞が is や are ではなく am であること。

可算名詞 boy の前には冠詞 a が必要であること。

語順は I a boy am. ではダメで、絶対に I am a boy. でなくてはならないこと……。

これらは、中学1年生にとっては決して簡単なことではありません。

 

そうした最も重要な英語の基礎を理解するための、最もシンプルな例文が I am a boy. です。

 

かつての英語教育は、こうした人称詞の格変化や be動詞の使い分けといった「文法」からスタートしていました。

そのためのレッスンとして、

I am a boy.

She is a girl.

He is a student.

We are friends.

They are teachers.

This is a pen.

Those are cameras.

…………

といった「味気のない」「非現実的な」例文を反復練習することで、身体化させていく。

そのためには、用いる例文が「実用的」であるかどうかよりも、そこに潜んでいるルールが、可能な限り鮮明に見えやすいことが重要です。

 

そうした意味で、I am a boy. は決してそれほど悪くない。

せめて I'm a junior high school student. にすればその方が遥かに実用的ですが、それだと生徒はおそらく junior high school student のスペルに気を取られすぎます。

 

語彙の習得は別の流れでやればいいのであって、まずは、

I am ✕.

Are you ?

He isn't .

というパターンを、文法構造を含めて理解し、身体化することに主眼を置く。

その入口が、I am a boy. であり、This is a pen. です。

 

しかし、今の考え方はそうではありません。

 

 例えばうちの娘の教科書をのぞいてみると、I am ✕✕✕. 型のセンテンスは、レッスン3まで出てきません。(最初に習うのは、I like ✕✕✕. です。)

そして、初めて出会う I am ✕✕✕. 型のセンテンスとしては、I'm Jack Smith. の後に、I'm from the U.S. が続きます。

 

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なるほど、"I'm from the U.S." は、I'm a boy. よりもはるかに「現実的な」センテンスでしょう。

(でも、よく考えてみると、中学生が現実に"Im from the U.S." という発話に接したり、自ら "I'm from Japan." と言ったりする機会だって、それほどあるとは思えないですよね。て言うか、そもそも日本人は、学校で習った英語の表現を現実の生活の中で使ってみるという機会がまずありません。それが、例えば東南アジア諸国などとの大きな違いでしょう。)

 

問題は、I'm from the U.S. というセンテンスのもつ意味の構造が、日本人には相当にわかりにくいということです。

 

つまり、いわゆる「直訳」では、"I'm from the U.S.” は「私はアメリカ出身です」にはなってくれません。

中1が最初に習うにはちょっと厄介なセンテンスであるように思います。

I'm from the U.S. が「私はアメリカ出身です」とか「アメリカから来ました」とか訳されるのは何故か。それを中1にわかりやすく教えるのは非常に難しいのではないかと心配になります。

 

事実、うちの娘は from の意味を、まず「~出身」と覚えていました。

教科書にもそう書いてあります。

実に不幸な from との出会いであると言わざるを得ません。

I walked from the station to the park. 

って言われても、「駅出身???」ってなってしまうわけですから。

 

もっと言えば、彼女は "I'm from ✕✕✕." を「私は✕✕✕出身です」と覚えていました。

主語「I」とは何か、be動詞は文中でどのように働くか、といったことを習う前に、です。

 

中学生用のある検定教科書に、

"For here or to go?" ー "To go."

「こちらでお召し上がりですか、お持ち帰りですか」「持って帰ります」 

 なんていうのが出たりして、少し議論になったことがあるそうです。

もちろん、これはさすがにやりすぎではないか、という議論です。

 

"For here or to go?” とか、"Long time no see.(久しぶり)" なんていうのは、確かに使用価値は高いかもしれませんが、そこから何も発展しない、つまり、一切応用の効かない表現です。

私は古い時代の英語教育を受けましたので、このような表現は大学生になるまで知りませんでしたし、実際、学生時代に初めてアメリカのハンバーガー屋に入った時は、"For here or to go?" に戸惑いました。

しかし、かと言ってそんな程度のことのために中学生のうちから備えておく必要はないでしょうし、私も「なんで学校で教えてくれなかったんだ!」などとはちっとも思いませんでした(笑)。

ハンバーガー屋で一度経験すれば済む話です。

 

翻って、I am a boy. は、そのまま使う機会は一生無いでしょうけれども、その文法構造の論理が理解できていれば、いくらでも応用が効きます。

The result of this imprivement is that the receiver can rapidly acquire a satellite and compute its position in environments where conventional, stand-alone GPS receivers cannot.

「この改善結果は受信機が迅速に衛星を捕捉して従来のスタンドアロンGPS受信機では不可能な環境内でその位置を計算できることである」

というような文だって、基本は I am a boy. の土台の上に成り立っています。

 

中学1年生が最初にである英文って、

I am a boy. 

ではいけませんかね?